新日本ワックス株式会社
除菌クリーンシステムの提唱
三神 秀文

<日本ビル新聞社・平成6年7月4日記事より>

M.R.S.A.とホスピタルサニテ−ション
 「ビル・ラッシュ」という言葉を耳にしてから30年余り、最近では「ホスピタル・ラッシュ」とでもいう様に病院が増えたような気がします。M.R.S.A. 注1)(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)という言葉を耳にしたのは3年程前だったと記憶しています。今後のホスピタルサニテ−ション(病院衛生)に何か重要な関係があるのではないかと思い、この研究を始めました。  このM.R.S.A.は、黄色ブドウ球菌という常在菌(雑菌)の中で代表格のもののうち、メチシリン(薬品)が効かなくなったものをいい、100株中約76株の割合で存在しています。  病気を治療するために入院した病院で、当初の病気とは無関係の病気に感染して発病することを「院内感染」と呼ぶことはご承知の方も多いと思います。通常の黄色ブドウ球菌(M.S.S.A.)は鼻や咽喉などに存在する細菌で、特殊な細菌ではなく、健康な人であれば感染しても危険性は殆ど無いといわれています。 しかし、M.R.S.A.は、抗生物質が効かなくなった黄色ブドウ球菌で、このM.R.S.A.感染で発病すると効きめのある抗生物質が殆ど無いため、治療が極めて困難で、死亡する危険性が高いといわれています。そのためには、日常ベースでの予防が必要ではないかと思われます。  常在菌には、その他にいわゆる一種のカビである「緑濃菌」、トイレ等でおなじみの「大腸菌」等があります。考えてみると、人はトイレに入りその後ロビーへ行ったりと、いろいろな所へバイ菌を連れて行っているものです。  急いでいるためか、よく手を洗わないでトイレを出る方もおられるとすると、ドアの把手等に大腸菌が付着していることも考えられます。また、床の上などはどうでしょうか。外来の方が駅のホームのトイレに入って、それから病院の中に入る、恐らく、靴の裏にはいろいろな雑菌が付着していると考えられます。

◎ M.R.S.A.対応の除菌システム
 これまでの病院のサニテ−ション(衛生)分野でも部分的な雑菌処理は行われているですが、M.R.S.A.という言葉が巷に流れ始めてから一層世間の関心が強まったように思われます。  これからのホスピタルサニテ−ションは、各関係機関も関与して行われていくものではないかと思います。今後「除菌クリーンシステム」必要性が高まるものと考え、同システムの導入を提唱いたします。  私の考えるシステムとは、以下のようなものです。  まず、床面等のワックスを剥離洗浄する場合は、雑菌処理のできる塩化ベンザルコニウム(消毒剤)注2) を18リットル中に1%配合した剥離剤を水で2〜7倍希釈し、作業を行います。汚れの度合いによっては、表面洗浄を行いますが、それぞれの場合に応じてやはり塩化ベンザルコニウムを配合した強アルカリ、弱アルカリ性洗剤を用います。次に、きれいな水やお湯等で表面を拭き上げ、通常の作業工程のとおり乾燥後にワックスを塗布します。その際、用いる樹脂ワックスは除菌剤T.C.C.(トリクロカルバン、トリクロカルバニード)注3)を樹脂ワックス18リットル中に1%配合してあるものを使用します。T.C.C.の働きにより一度塗布したワックスは、その塗布面が剥がれるまで、前述の黄色ブドウ球菌に対して除菌効果 注4) があるというものです(有効成分20%)。この場合、公式な検査機関の証明書のあるものが望ましいと考えます。  この後は、日常清掃管理のシステムです。日常の手入れはトイレ、ドアの把手、手すり、椅子(レザー)、机、玄関部分の石材等々、20〜30倍まで水で薄めた洗剤で雑菌処理ができるものがよいと思われます。(ノンリンスタイプ)

◎ 抗菌ワックスとは
 天然抗菌成分であるヒノキチオール(抗菌剤の影響による弊害を予防)に着目し、耐性菌の発生を殆ど許さないという抗菌力と、完全な天然物質であるという安全性二大特徴をいかに効果的発生・持続させるかという考えにおいて、ヒノキチオールをマイクロカプセル化し効果的にその性能を発揮させるという手法を開発したワックスが注目されています。

◎ 除菌クリーンシステムによる見積りを
 今後、ビルメンテナンス各企業がホスピタルサニテ−ション分野へサービスを提供していくうえには、この「除菌クリーンシステム」による設計見積りが肝要となります。しかも、病院関係や外来の方へのサービスを考えるとき、簡単で安くて喜ばれるケミカルづくりがなされなければならないと思います。  21世紀が目前の今日、ホスピタルの壁、天井にも目を向け、サッシュの溝の除菌処理、ダストシュートの周りの除菌処理、すべての用具の点検、そしてやはりそれらの除菌処理も忘れてはいけないと考えます。また、資材と共に新しいケミカルの開発も必要となるでしょう。 これは当社のシステムを導入した、S社の実話です。S社は新年度の契約更新の際、経営上予算縮小を要請してきた病院に対して、逆に値上げを申請しました。この病床数約20の個人病院にはビルクリーンメイト(日常清掃勤務者)が2名常駐し、約20年ほど継続して清掃管理が行われてきました。しかし、近年では諸物価の値上りのためか、毎月利益はおろか20%の赤字で請け負ってきました。ところが、この除菌クリーンシステムを提唱したところ、30%強の値上げが認められたそうです。同病院は関係機関から評価を受け、S社も利益が確保でき皆喜んでいるとのことでした。現場のビルクリーンメイトの昇給も実現できたそうです。  除菌クリーンシステムとは、建設業界でいうところの「システムキッチン」のような概念で、安全で快適で効率のよい機能的衛生システムのことです。  21世紀への「綺麗」への美学と目に見えない部分のサービスでありますところの「除菌クリーンシステムの提唱」は、もう始まっていると考えます。次の世代を担う若い方々に私は、この提唱と共に大いなる期待を抱いているところであります。

(みかみ ひでふみ/新日本ワックス株式会社・会長)


【注1】
M.R.S.A. …メチシリン耐性黄色ブドウ球菌のこと。
      食中毒および種々の化膿性疾患の原因となる病原菌の一種で現在使用されて
      いる殆どの抗生物質に対して耐性(薬品が効かなくなること)なったものを
      いう。現在、病院内感染の原因菌として、最も対策が必要とされている。

 (原文)          (邦訳)
M……Methicillin       メチシリン(抗生物質)
R……Resistant        耐性
S……Staphylococcus      ブドウ球菌
A……Aureus 黄色

【注2】
塩化ベンザルコニウム…日本薬局方(第十改正)第1部に合格した液体で、一般に逆性
      石鹸と呼ばれる第四級アンモニウム塩系の殺菌消毒剤。これを配合した剥
      離剤、アルカリ性洗剤が上市されている。それらを使用後に排水管へ流し
      た場合でも、途中で中和されるので河川や海に棲む魚に影響はない。従って、
      その排水の流出口付近にいる魚をヒトが食べても影響はないのである。

【注3】
T.C.C.…  トリクロカルバンのことで、主にヒトの皮膚上に発生する細菌という厄介者た
      ちを制御する化合物。これを配合した床用ワックスが上市されている。
      このT.C.C.はねずみによる経口試験や人体による塗布試験での結果では問題
      は無い。

【注4】
除菌効果試験方法
対象試験菌  1.緑濃菌(Pseudomonas aeruginosa)
       2.黄色ブドウ球菌
            (Staphylococcus aureus)
       3.大腸菌(Escherichia coli)
接種菌液   各菌株を普通ブイヨン培地に一白金耳接種し、37℃、24時間培養したも
       のを接種菌液とする。
試験溶液の調整
       原液はそのまま、希釈するものは減菌生理食塩水で希釈する。
試験方法
       各試験溶液および対象液(滅菌生理食塩水)規定された接触時間後に一定量をとり、衛生試験法細菌一般試験法に基づき処理し、寒天培地で37℃、24時間培養し、生菌数を測定する(スパイラル・プレーティング法)。

 

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